【デーリー東北】私見創見「『ラヴソング』を見て」

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デーリー東北 2016年5月26日(木)朝刊 コラム「私見創見」より

「ラヴソング」を見て

自分を認めて前を向こう

フジテレビ系列で月曜9時から放映している「ラヴソング」。今、このドラマが気になって仕方ない。

ヒロインは「さくら」という若い女性。臨床心理士の主人公「神代」に恋心を抱き、歌手を目指しながら成長する内容なのだが、さくらは吃音がある。気になる理由は、私も吃音に悩む一人だからだ。

自覚したのは小学校3年生の時だ。教科書の音読で「バナナ」を「ば、ば、ば、ばあなな」と言ってしまい、「おまえの話し方、変!」とからかわれた。

友達と話すことも人前で発表することも苦手になった。「『変』だから病院に行きたい」という私を、両親はある病院に連れていった。

「読んでみて」と一冊の本を渡されたが、やっぱり言葉が出てこない。出てくるのは涙だけ。読み終えると先生が言った。「小さい頃にはよくあることです。大人になれば良くなりますよ」。治るという希望が見えたものの、学校生活は嫌だった。

心配した両親は耳が聞こえない・話せない・目が見えないという三重苦を乗り越えた「ヘレン・ケラー」の伝記漫画をプレゼントしてくれた。「私よりもつらい人がいる」。そう思い直して学校も頑張り、2年生の時から始めたアイスホッケーに打ち込んだ。

さくらは吃音を気にして周囲とコミュニケーションを取りたがらないが、歌う時は不思議とスムーズに言葉が出てくる。「歌っている時は自分を好きになれる」とステージに立つため吃音を乗り越えようとする。

私も同じだった。学校では気にしたが、アイスホッケーだけは違った。プレー中は全く気にしなくて良かったし、楽しくて、「アイスホッケーだけは負けたくない」と自分を表現できた。

自分が変われたもう一つのきっかけは高校入学の時だ。自己紹介で「さ、さ、佐藤、あ、あゆみです」と名前が言えず笑われたが、なんとか一通り話して席に戻ると隣の女の子に言われた。「一生懸命で良かったよ!」。たった一言だが、とてもうれしかった。「これでいいんだ」と自分を認めることができ、友達との会話が楽しくなった。

大学2年生で長野五輪に出場した時、デーリー東北の記事に「障害乗り越え夢舞台」というタイトルがついた。学校を休んだり保健室登校をしたりした時期があったので、吃音は確かに「障害」だったかもしれない。

今になってふと「私は『障がい者』なのかな?」という疑問が湧き、インターネットで調べてみた。吃音は言語障害の一種だが、重度以外は障害者手帳が交付されない。「今は全然気にならない」と言われる私は軽度で、当時の先生が言った通り「大人になって良くなった」のだろう。

だが、今でもやはり言葉がうまく出てこない時がある。電話する際、吃音を防ぐためペンで「トン、トン」とリズムを取ったり、人前で話す時に足を一緒に動かしたりしてしまう。

「(吃音の)深刻さを周りに理解されないことも多くて。そのぐらいたいしたことないじゃんって。でも、当人たちはすごく苦しんで」。第一話での言語聴覚士のセリフが、まさにそう。吃音があると精神的に苦しい。私は治ったのでなく、吃音がある自分を受け入れ、気持ちを強く持てるようになっただけなのだ。

でも、それでいいのかもしれない。笑われてもいい。これまで自分にしかできない人生を歩んできたし、これからも吃音とうまく付き合っていこうと思う。

ドラマを監修する「全国言友会連絡協議会」に取材を重ねたというだけあって、さくらのセリフは私の心の声そのもの。もし気になったら、ぜひドラマをご覧ください。け、決してテレビ局の回し者ではありませんよ(笑)

女子アイスホッケー元日本代表 鈴木あゆみ

<二次利用申請許可済>

***

吃音について私の周りの方々は「まったく気にならない」と言ってくれるのですが、普段の生活では結構つっかかるし言葉が出てこないので、最近ついに娘から「おかあさん、なんでそういう話し方なの?」と言われてしまいました(笑)。

つっかかるんですよねえ・・・なぜか。今もです。自分の名前も、です。

まず、「すずき」を言うのに一苦労。「すずき」とスラスラ言えなくて、「す、す、す、すずき」とつっかかるのがわかっているので、「す」はほとんど言葉にしません。「す」は言ったつもりで「・・・(呼吸を吐きながら、す)ずきあゆみです」というように、どうすれば「いかにもスラスラ言ってますよ」と見えるかを体得しているだけなのです。
(ちなみに旧姓の「さとう」も言いにくかった・・・笑)

考えても仕方ないので、気にしないのが一番らしいですね。とはいっても、本人はやっぱりつらい時がある。子どもならなおさら。大人になってからも、電話に出なければいけない仕事や人前で話をする機会もたくさんありますし。

吃音がきっかけで「言語聴覚士」になりたいと思っていたときもありましたが、この目標だけは未だに達成できずに終わってしまいました。でも、もし私の経験が何かしら他の方の力になることがあればそのときは協力していきたいな、という気持ちは持ち続けています。

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