【女子アイスホッケー】デーリー東北・私見創見「育児と『頑張り』」

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デーリー東北 2016年4月14日(木)朝刊 コラム「私見創見」より

育児と「頑張り」

悩み抱えず周囲に相談を

シーズン最後の大会だった全日本女子アイスホッケー選手権(A)を6位で終え、選手は進学や就職などで、リンクの外でも新たな一歩を踏み出し始めた。

私はと言うと、アスリートモードから一変。長女の小学校入学と次女の幼稚園の準備に追われ、教材や園グッズにひたすら名前を付け続けた。

もし今、6年間を振り返って「トレーニングと育児、どちらがきつかったですか」と質問されたら、間違いなく「育児!」と答えるだろう。

今でこそ穏やかな気持ちで笑っていられるが、1年ほど前まではひどいものだった。思い描いていたように子どもとの時間を楽しめなかった。

娘たちは年子で、二人いっぺんに泣く。特に次女を出産してからは産後鬱のような症状が出て、たびたび婦人科や心療内科にお世話になった。

アイスホッケーの夢と目標を捨てきれず続けていたが、2年前の仙台への引っ越しでさらに負担が増したのか、症状が悪化した時期があった。

4月のある日、二人を子育て支援施設へ連れて行った。自由に遊ばせるまでは良かったが、私が帰りたい時間になっても、なかなか言うことを聞いてくれない。

その日は「まあいいか」と思う心の余裕がなかった。「もう帰るよ!」と強く言うと、真っ赤になって大声で泣き叫び始めた。八戸で何度もそのような場面を経験していたが、ここは仙台。真っ暗な背景の中に一人ポツンと突っ立っている感覚に陥った。

「遊びたいだろうけど、こっちの気持ちも分かってよ」「こんなところで大泣きされるなんて、ダメな母親丸出しじゃないの」「耳に突き刺さるような泣き声が嫌い」「これ以上どうしたらいいの」…。

ありとあらゆる負の感情が出てきて、このままその場にいたら何をするか分からない自分がいた。「うわっ、これはヤバい」。直感でそう思い、泣き続ける二人を抱え、隣にあった区役所に駆け込んだ。

「すみません、子育てについて相談があるのですが」。家庭健康課に案内され、職員の方が対応してくれた。椅子に座って話し始めると、なぜか安心して泣いてしまった。
「お母さん、よく来てくれました。頑張って来ましたね」。その言葉でさらに涙を流す顔を、泣きやんだ娘たちが不思議そうに見ていた。

それから何度か相談に訪れ、紹介された発達相談支援センターにも行った。一人で遊ぶことが多く、こだわりが強すぎる次女が心配だったが、検査で問題ないことも分かった。

1年後の電話相談。

「虐待のニュースがあっても決して人ごとと思えないし、その側になっていたかもしれないと思うことがある」

「今、何気なく言ったかもしれませんが、そう思う人は大丈夫だと思いますよ」。
最悪の状態をようやく脱したことに気付いた。

いまだイライラしたり叱ったりすることは多々あるが、当時と比べると質が違う。自分が何にイライラしているのかも分かるし、1日の最後は笑って終わることができる。

育児をしながらアイスホッケーを続けると選んだ道なので、泣き言はこぼさないようにしていた。長く競技に関わってきたせいか、「頑張る」ことは当然だと思っていた。

でも、トレーニングと違って、いくら母親が頑張っても子どもは必ずしも思い通りの結果を残してくれない。勝負と命を育むことの頑張り方は、全く別物だったのだ。

子どもとの時間が楽しめずに苦しい時は、限界まで一人で抱えず、周りに相談する勇気を持ってほしい。

育児の愚痴は、頑張っている証拠。

今、赤ちゃんを抱っこして頑張っているママさん。安心してください。育児がどんなトレーニングよりきついことは保証しますからね!

女子アイスホッケー元日本代表 鈴木あゆみ

<二次利用申請許可済>

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