デーリー東北 2016年9月29日(木)朝刊 コラム「私見創見」より
スポーツ自立型教育
勝利の先にあるものは
先日、仙台で開催された「スポーツ自立型教育セミナー」に参加した。講師は村井忠寛さん。男子アイスホッケーの日光アイスバックスの元選手・監督で、現在はアスリートスタンダード代表取締役として、選手の育成・キャリア教育に携わっている。
仙台のリンクでは度々、スキルアップを目的としたアイスホッケースクールが開催されるが、セミナーは会議室での講義とワークのみ。選手やスタッフに加え、保護者や会社員、小さなお子さま連れのお母さんといった、さまざまな立場の方が集まった。
スポーツ自立型教育は「原田メソッド」をスポーツ現場で取り入れ、自立した人間を育てることを目的とする。原田メソッドとは、教師として大阪の公立中学校陸上部を13回日本一に導いた、原田隆史氏が提唱している教育法。今では企業研修やプロ野球チームなど多方面で取り入れられているという。
「全国大会優勝」「市内大会3位以内」といった目標を掲げることは、どの部活・チーム(コーチや親も含め)もしていることだろう。村井さんが指導するのは、そこから先だ。「何のためにスポーツをしているの?」「優勝して何がしたいの?」と目的を考えさせることが大切だとする。
一例として、陸上部で日本一になった中学生選手が書いた「長期目的・目標設定用紙」が配られた。A4用紙に字がびっしり。達成したい目標や達成する日にち、それまでのルーティン(毎日○○をします)、家庭での生活、奉仕活動など項目は多岐に渡る。
「中学新記録で日本一になる」という目標の他に、「家族で記念写真を撮り、最高の記念になる」「中学校が陸上部の活躍によって元気になる」「先生や仲間、親に喜んでもらう」と社会・他者にどう関わりたいのかまでつづられていた。
これは「目的・目標の4観点」といい、「自分」と「社会(他者)」、「無形(感情)」と「有形(順位・数値など)」に分けて考え、書いてみる方法だ。そうすると、「優勝」はあくまで目的達成のための目標であることに気付き、その先にある「親や仲間と喜びを共有する」「地域に明るいニュースを届ける」といった、「何のために」しているのかが可視化されていく。
私が長年アイスホッケーを続けてきたのは「勝つ喜びを味わいたい」からだが、今思えばその先には「女子アイスホッケーを知ってほしい」「八戸でもやればできると思ってほしい」という願いがあり、目的は後者だと気付いた。
何のためにそのスポーツをしているのか、目的が明確であればあるほど軸がぶれることはない。たとえ試合に負けたとしても、自ら課題を見つけ、考え、その後の行動に移すことができる。それは、未来を切り拓く力につながっていく。
選手やスタッフとしてはもちろん、母親目線で考えても「なるほど」と思う内容だった。一番共感したのが「再建(しつけ)3原則」の一つで、場を清めるという考え方。大学生を指導する際、脱いだ靴が揃っていなければ「準備が整っていない」とリンクから戻らせ、揃えてから練習を開始するという。
一見そんなこと?と思うかもしれないが、優れた能力を発揮し、一人一人が自立したチームにするには、まず人格の土台を育てることが必要なのだ。そのためには家庭の協力も不可欠で、保護者が同じ目的を共有することで子どもへの接し方が変わるという。
村井さんは原田メソッド認定講師の中で、唯一のプロアスリート出身者。内容をすべて紹介できないが、今後も各地でセミナーを開催したいとしており、興味がある方はぜひ聞いてほしい。問い合わせはinfo@athlete-standard.com
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