私見創見「スポーツと性別」【デーリー東北2017年11月2日掲載】

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スポーツと性別

差異認め合う新たな道を

「今だから言えるけど、入学式前に職員室で話題になったんだよ。お前が来るから。」

同級生との飲み会で、中学時代の恩師から告げられた。はて?ケンカした覚えも茶髪にした覚えもない。

「アイスホッケーをしている女子が入学する。もし、アイスホッケー部に入りたいと言ってきたら、どうする?」

母校の中学校で初めての女子選手。女子の入部は前例がない。公式戦にも出られない。学校側としても、どう対応したら良いのか分からず手探り状態だったと思う。結局、部活は水泳部へ入り、アイスホッケーは女子チームの八戸レッズでプレーした。

一般的にアイスホッケーといえば、男性のスポーツというイメージが強い。女子日本代表・スマイルジャパンが2大会連続五輪出場を決めた今でも、「アイスホッケーをしています」と言うといまだに「え!女子もあるの?」とビックリされることがある。代表選手たちが口をそろえる「多くの人たちにアイスホッケーを知ってほしい」という願いを実現するには、まだ道半ばといったところか。

男性の選手が多いスポーツを女性がする上で、目に見えない壁も存在する。

高校の先輩から「女子選手としての意見を聞かせて」と連絡をいただき、県外のラグビースクールでの出来事を知る機会があった。

先輩の友人の男性・Aさんは小学4年生を中心に教えているコーチ。ここ数年、女の子の参加が増えてきたという。リオデジャネイロ五輪で7人制が正式種目になった女子ラグビー。女子日本代表「サクラセブンズ」がメディアに出るようになった影響もあるのだろう。

4年生は早い子だと月経が始まる頃。「突然、月経になったり、下着が汚れたりしたら恥ずかしい思いをしてしまう。女の子たちにラグビーを嫌いになってほしくない」との思いから、ラグビーパンツ(ラグパン)を白から黒に変えることを他のコーチに提案した。

「確かに黒だと安心。選手にとってありがたいのでは」と思う。だが、女子選手の保護者以外の関係者から猛反発をくらったという。「まだ小学生だし、絶対大丈夫」「発生確率が低いことに労力をかける必要はない」。「そんなことを気にするようではラグビーなんてできない」という声もあったそうだ。

根性論ではなく、専門家の意見を踏まえたうえで提案するため、Aさんの奥さまはトップレベルの女性アスリートを診ることが多い婦人科医を訪ねた。「羞恥心はケアする必要があると思う。新体操は生理用品が目立たないデザインのユニフォームが開発されています」と助言を受けたという。

チームでラグパンをそろえ直すとお金がかかる。反対意見も確かにあるだろう。だが、お金や生理の対処方法の問題だけではない気がする。

「守るものは伝統?ジャージの重み?みんな違って、子どもたち一人ひとりだと思います。」

そう言う男性コーチAさんと、中学時代の先生方や今までお世話になった方々の姿が重なる。男子メインのスポーツチームで女子選手を受け入れ、育てることはまさに手探り。前例のないことに向き合い、支えてくれた方々のおかげで今がある。

ラグビーに限らず、どのスポーツでも同じような問題は起こりうる。女子の中に男子が混ざるパターンもあるだろう。同じスポーツをする者同士、性別の違いを認め合い、お互いを尊重し合える方法を模索していけたらと思う。

母校のアイスホッケー部の顧問に聞いたところ、今も中学校体育連盟の公式戦には出られないが、女子の入部は比較的スムーズだという。女子選手が出場できるHTV杯というリーグ戦もある。

たとえ最初は手探りでも、全てがいつか「道」になっていると信じたい。

デーリー東北 2017年11月2日(木)朝刊 コラム「私見創見」より

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